麦わら象嵌(ストローマーケトリー)
東方の起源、フランスでの再生
極東に起源を持ち、17世紀にヨーロッパへ伝わった麦わら象嵌は、18世紀のフランスで黄金期を迎えました。長く忘れられていたこの技法は、1920年代に装飾家アンドレ・グルーとジャン=ミシェル・フランクによって再び注目され、アール・デコの家具や壁面パネルに用いられます。2000年代以降、アンドレ・グルーの孫娘であり、メートル・ダール(Maître d’Art/フランス人間国宝)でもあるリゾン・ドゥ・コーヌの活動によって、本格的な再興へとつながりました。
細かな模様では、一日に進められるのは数平方センチほど。
希少となったフランスのメティエダール
現在、フランスで麦わら象嵌を専門に手がける職人はごくわずかです。限られたアトリエが、知られざる技を受け継ぎながら、現代の表現へと更新しています。フランスでは、希少化が進むメティエダール(美術工芸)の一つに数えられています。
ライ麦のわら
原料にはライ麦のわらのみを用います。長さ、しなやかさ、そして自然な光沢を備えるためです。この光沢は、成長の過程で穀物が土壌から吸収するシリカによるもので、天然のニスのような役割を果たします。仕上げ剤を使わずとも、わらには他の素材にはない輝きが生まれます。現在、フランス国内の麦わら象嵌作家にわらを供給している穀物農家は一軒のみです。
三つの道具、ひとつの手仕事
麦わら象嵌に用いる道具は三つ。へら、メス、筆です。へらで割いたわらを押し広げて平らにし、光沢を引き出します。メスで裁ち、模様を描き、筆で糊を置きます。一本一本のわらを爪で割き、湿らせ、アイロンでのばしてから、木、石、金属、革などの基材に、端をそろえて一本ずつ貼り合わせます。最も複雑な模様では、一本のわらを通常の四分の一ほどの幅まで細く裁つこともあります。
時間という素材
麦わら象嵌の作品に価値と密度を与えるのは、そこに費やされる時間です。その積み重ねが、一点物であることを必然にします。模様も、染めの色も、光の反射も、まったく同じものは二度と生まれません。